土地の区画が明確であるとはどのようなことでしょうか?
そもそも土地に切れ目などありません、区画とは人が人為的に定めたものに他なりません。
ならば具体的にどのような状態にあれば区画の境である境界が明確であるといえるのでしようか?

  1.  道水路など官地も含めて隣接地の所有者と境界について同じ認識を持つこと。境界が明確であるということについて最も重要な要素です。隣接地間の認識に相違がなければ争いは生じません。たとえ別の要素で障害が生じたとしてもその解決は難しいものではないでしょう。
  2.  隣接地間で同一の認識に基づく境界標を設置すること。例え隣接地間と同一の境界認識を持っていたとしても、目に見えて互いの状況を確認できなければ、誤解や勘違いによる問題が起こるかもしれません。そのために互いが確認した境界票が設置されているべきです
  3.  互いに境界を確認した記録を所持するべき。設置された境界標の根拠となるべき記録を互いに所持すべきです。記録とは測量した図面や境界確認及び設置を了解した署名書面などがこれにあたります。ここで重要なことは互いに所持すべきという点にあり、互いに持つことにより一層の同一認識を確保できるという利点を持ちます。又、記録については専門家の作成したものを残すことをお勧めします。 単なる覚書やメモ程度の図面は後日に記録内容があいまいになり問題になった例もございます。
 「 杭を残して悔いを残さず 」 

土地の境界には境界標を設置しましょう


  • プラスチック杭 ( 地表面であれば場所を問わず設置できます ) 
  • コンクリート杭  ( 設置場所は限られますが非常に頑強です )
  • 金属鋲      ( コンクリートやアスファルトの下地に設置します )      
  • プレート標    ( コンクリートの下地に設置します )
  • 木杭       ( 永久の標識として適しませんので、境界標としては推奨できません )


下の写真をクリックしてください。境界標の拡大写真がご覧いただけます
境界について考えてみましょう。

 境界はその態様によって下記の3種類にできます。

(1) 公法上の境界( 筆 界 )
 登記制度に反映されている地番と地番の境をいいます。 この境は国のみが定められるものであって、最初から客観的に定まっているものとされています。よって関係当事者の意思のみで変更することはできません。
 このことは、登記制度の趣旨である「取引の安全を図る」ということにも関係しています。土地の情報が公示されているということは、誰もがいつでも正確な情報を得られるということに他なりません。それが土地の登記情報 ( ここでは境界の位置 ) が公示されることなく、いつの間にか当事者間で変更されていたら、そしてそのことが認められていたらどうなるでしょう。
 公示されていない情報があることが前提となり、本来の役割である正確な情報を提供できなくなってしまいます。
 公法上の境界は登記制度を保つための重要なファクターであり、それゆえに厳密に扱わなくてはなりません。
 我々土地家屋調査士は、この公法上の境界(筆界)の専門家として、皆様のご相談にのっています。

(2) 私法上の境界( 所有権界 )
 一般的に隣接者間で合意した境をいいます。
 お互いの約束ですから信義則に反しなければどんな決め方をしてもかまいません。しかし当事者間のみの合意のため当事者以外にはその境を主張することはできないことを忘れてはなりません。
 当然所有者が変わった場合には、単純にその境界の約束を引継ぐということはできません。新たな所有者と改めて約束(契約)し直さなければなりません。
 このような不便さをなくすためには、やはり当事者間の約束を登記制度に反映させておくことが肝要でしょう。又、登記しておかなかったために境界紛争に発展する例もたくさんあります。
 他にも土地の一部売買をした場合や時効により権利を取得した場合などで、登記手続きをせずにそのままになっている例も多いと聞きます。 ご自身が認識している境界が登記制度に反映されているか否か、この機会にぜひ確認してみてください。

(3) 私法上の境界( 占有界 )
 上記(2)の所有権界と区別せず私法上の境界として一まとめにして考える方法もありますが、分けて考えた方が理解しやすいと思います。
 実際に使用(占有)している範囲の限界を示す境をいいます。 現実にどうなっているかが問題となるため、当事者間の合意などは関係ありません。
 つまり、不法または不当な方法により成り立った境界かもしれないという要素を含んでいます。
 境界紛争の代表がこの占有界によるものです。 
 一方の当事者が錯誤(かんちがい)により使用(占有)を開始したため、他方が抗議をします。しかし占有者は勘違いを認めません。と、いうより本当に勘違いをしていることを知らない場合が多いようです。そして解決せぬまま時間だけが流れてゆく。 紛争はこのようにして長期化していくものです。

 ご自身が所有する土地の境界を(3)から(2)(1)と逆に確認してみてください。
 自分が現在使用している部分は隣地の方と確認した範囲を超えていないだろうか?(占有界と所有権界の一致)
 隣地の方と確認した範囲は登記に反映されているだろうか?(所有権界と筆界の一致)
全て一致すれば、問題は起こりません。しかし1つでも異なればいつ境界問題となって現われてもおかしくありません。
どのように境界は決まったのでしょうか?

 境界そのものの成り立ちを考えると、土地制度の成り立ちから考察しなければなりません。ここでは学術的な話は必要ありませんので、現在の境界に直接関係する部分でご紹介します。

 日本は明治時代を向かえ徐々に近代国家としての体裁を形成するようになります。
 その中で土地制度の改革及び地租(税金)の改革が現在の境界を成立させるにあたり重要な役割を果たすことになります。 まず領主が土地を支配し農民に使用収益させるという封建的な土地支配の形態が、一つの土地は一人が所有するという排他的な土地所有の形態に変わり、誰でも土地を所有できるようになりました。このことにより土地を所有するという意識が生まれその物理的範囲を示す境界への意識も高まってきました。(近代土地所有権制度)
 又、明治政府は地租改正により全面的な税制改革を行います。 つまり石高による税の徴収を廃し、土地の面積に応じた税を徴収する方法に移行しました。
 この改革を行うには、どうしても税の徴収対象である土地の正確な面積を調査する必要があります。
 そこで政府は全国を測量調査し、日本全国全ての土地についての面積を算出しました。
 この作業もとに面積・地目等が記録されている地引帳 ( 土地台帳 )が作成され、この土地台帳に附属する形で地引絵図(じびきえず)と呼ばれる土地の配置・形状を表わした地図が作成されます。このとき境界を確定した作業が今日の”公法上の境界”を確定する上での基本となるわけです。
 その後作成された台帳及び地図は数回の更正作業を行い、税制面での使用から不動産登記に関しての使用に移行するに至り、地図については現在も公図 ( 地図に準ずる図面 ) として今なお使用されつづけています。 つまり今日の境界は元々は税金の徴収のために定められたものであり、土地所有者個人の権利を守る為に定められたものではなかったということをご理解いただければと思います。 当時の測量は専門家が全て行ったわけではなく、地域住民が官吏より指導を受けて自身で行った部分が非常に多かったといわれています。よって、税金の徴収という性質上、面積を実際より小さく申告する例も多々あり、今日現地と公図が一致しないという理由はこのようなことに由来しています。
境界確定の訴え と 土地所有権確認の訴え の関係

 土地の境界をめぐって紛争が生じた場合、関係当事者間で解決ができないときは裁判を起こし、司法の場で解決を求めることになります。 今日、筆界特定制度や民間型ADRなど裁判外での紛争を解決する手段は増えたものの、その効力は絶対といえず当該機関がその境界を確認するにとどまっています。 その意味で裁判は訴訟という手段をとることにより公権力で絶対的な解決を図ることができるメリットがあります。
 一般的に紛争の無い土地において、所有権界で区画された部分は公法上の境界で区画された部分と一致していることが原則です。 しかし、境界の種類の項でご紹介したとおり、必ず一致しているとは限りません。
 裁判においても、この2つを区別し、公法上の境界を確定させるためには ” 境界確定の訴え ”を又、所有権界を確定させるためには ” 土地所有権確認の訴え ”提起せよといっています。
 これは、所有権界が当事者間で決められるという事に対し、公法上の境界は当事者に決める権限がないということに由来します。
 このことは、境界確定の訴えには棄却が無いということにも表わされています。
 境界確定の訴えが提訴されたからには、裁判所は当事者の訴えに耳をかすことなく、必ず境界を確定しなければなりません。又、当事者も境界確定の訴えにおいては和解をすることは許されません。
 両訴訟は似てはいるが内容的に全く異なるものであるから、紛争が生じ裁判が必要になったときは両訴訟を同時に提訴する必要があります。